スイス 山岳ホテル  No.4


ヒストリック・アルパインホテル・グリムゼル・ホスピス の歴史

グリムゼルホスピスが最初に歴史の舞台に登場したのは中世のこと。ピエモント(イタリア)~ブルグンド(スイス)を結ぶ街道(グリムゼル街道)沿いの宿舎として、1142年の文献にその記載を認めることが出来ます。そして1400年頃にはホスピスとしてアルプスの峠を越える旅人や商人、巡礼者に宿を提供していた記録が残されています。

1852年にオーナーの放火により消失。しかしすぐに再建されました。というのは夏の間には結構数多くの宿泊客があったからです。しかし当時の「ベデッカー」のガイドブックには「各部屋の間は板一枚で仕切られているだけであり、三つ隣の部屋の小さな音までが聞こえるほどだった」と酷評されています。


グリムゼル街道は中世以来ずっと人の道だけでしたが1894年にようやく車が通れるように拡張され往来も飛躍的に増えました。アルプスの街道の中では結構遅かった方なのですが、ホスピスの施設は相変わらずの状況が続いていました。


それを一変させたのが、電力会社によるグリムゼルダム建設計画です。水力発電用のダムを建設するために街道の峠付近の多くの部分が水没することになり、グリムゼルホスピスもその例外ではありませんでした。ただ中世からの歴史のあるこの施設を水没させるのは惜しい、ということで地元の電力会社の協力もあり、1930年に一旦営業を終了した後、ダム湖の上に出る岩山の上に移築。1932年に再度オープンしました(現在のホテルの原型です)。昔からの切妻風の建物の雰囲気を残しつつ、この地方の花崗岩を使った階段状の外観がアルプスの中での自然と人間の調和を表しています。そしてこの建物は当時ヨーロッパ初の電気暖房装置を備えていました。

2008年から2010年にかけて大規模なリノベーションが行われました。部屋はすべてモダンな雰囲気の個室となり、トイレとシャワールームも併設されましたが、その構造や使用されている家具や材質には当時のつくりが考慮されています。アルプス松を使ったレストランと塔のホールは1930年代の雰囲気をそのまま保存。地下のワインセラーも美しく再現されました。そして2010年には「スイスヒストリックホテルズ(スイス歴史ホテル)」のメンバーとして選ばれました。


現在もグリムゼルホスピスは変わらずにターコイズブルーのダム湖の上
の岩山の上に建っています。ただ今では山岳労働者の為の宿舎ではなく、美食家と自然愛好家のための趣向を凝らしたホテルとして世界中に知られるようになりました。